2回目は、都心部の右岸に残るパサージュ・クーヴェール(ガラス屋根付きのパサージュ)と、バスティーユの東側に点在する路地(パサージュやクール)についての話でした。
ヴァルター・ベンヤミンが “パリの原風景” と呼んだパサージュ・クーヴェールは、資本主義による消費社会が発展した19世紀に、鉄とガラスの建築技術で造られた商業空間です。
でも、デパートが出現した19世紀末から20世紀になって、パサージュの人気は一気に衰退。取り壊されたり荒れ果ててしまったものも多い。ボクがパリ(郊外)に住み始めた1987年には、ほとんどのパサージュがいかにもうらぶれた前世紀の遺物という感じだった。じつはその寂れ具合がまたよかった、ともいえるのだけれど・・・。
その後1990年代から21世紀になって、パサージュ・クーヴェールが再評価されるようになった。古いけれど味のある建築としての魅力と、ガラス屋根からのやわらかな光の空間が、今の時代感覚に適合しているのだと思います。
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静かなギャルリ・ヴェロ・ドダ(1846年)。 |
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モザイク床がきれいなギャルリ・ヴィヴィエンヌ(1846)。 |
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レトロな雰囲気のパサージュ・ジュフロワ(1845)。 |
ところでパサージュというのは、抜け道、通路のこと。で、パリには屋根付きではない抜け道のパサージュがあちこちにある。都心部にもこんな路地がひっそり隠れています。
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ポンピドー・センター近くのパサージュ・モリエール。 |
バスティーユ広場からナシオン広場へ通ずるフォブール・サンタントワーヌ通りの周辺には、雑然とした表通りの喧噪が信じられないような路地が20か所近くもある。反対側の通りへ抜けられるパサージュと、クール(中庭や袋小路)。これらのほとんどが、かつて家具職人たちの作業場だったところ。今も家具製作や塗装のアトリエも残っているけれど、デザインや建築、編集などのアトリエに転用されているところも多い。
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パサージュ・ド・ラ・マン・ドール。 |
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パサージュ・デュ・シャンティエ。 |
屋根付きと屋根の無いのと、公共空間と私的な空間の接点パサージュは、どちらもどこかなつかしく穏やかな空気が流れる不思議な空間です。
かつて穀物屋があったというパサージュ・ド・ラ・ボンヌ・グレーヌは、“Je m'en fous pas mal" というピアフの曲に歌われています。(宏)