北駅でRER-E線に乗り換えて15分ほど、ル・ランシー(Le Raincy-Villemomble- Montfermeilというやたら長い名前)の駅で降り、とりあえずは駅前のカフェで、じゃがいものピュレが添えられた厚切りの温かいローストビーフの昼ごはん。手抜きのない味と田舎値段で満足です。カフェで教会への道を聞くとじつにカンタン、そこのレジスタンス大通りをまっすぐ行くだけ。
駅前から北に延びるその大通りは、みごとな並木道で街並も落ち着いた地方都市のよう。ガラが悪いといわれるヌフ・トロワ(93=セーヌ・サン・ドニ県)の町だけど、19世紀まで大きな城があった伝統か、この道を歩くかぎりではどこか風格さえ感じるくらいで、ちょっと期待? 外れです。
並木の大通りから引っ込んでペレの尖塔が見える。 |
ル・ランシーのノートルダム教会は、鉄筋コンクリート建築の父オーギュスト・ペレの傑作として知られている。第一次大戦後、労働者の住宅地として急激に増えた人口に対処するために建設された教会です。
塔の高さは50メートル。正面にブールデルの浮き彫りがある。 |
ペレは1915年に、資金難で中断していたシャンゼリゼ劇場の工事を引き継ぎ、コンクリート建築にすることで完成させている。このル・ランシーの教会が、通常の教会建設費の1/6という低予算で実現できたのは、シンプルな構造と当時画期的だった打ちっぱなしのコンクリートの採用によるもの。しかもペレは設計を1か月、工期わずか13か月というスピードで完成させている。“安い、早い、うまい” のペレ乃家です。ただし、コンクリートの質と施工に問題ありだったようで、傷みがひどく、1980年代に徹底的な修復工事が行われている。
それはともかく、この教会がすばらしいのは、四方の壁に広がるステンドグラスが創りだす色の光にあふれた空間です。
幅26メートル、奥行き56メートル。 |
東向きの正面入口から堂内に足を踏み入れると、黄色を主調にした左右の光の壁面が、内陣の青い光の壁面に向かって、微妙に変化しながら続いています。この内陣の青い色は、シャルトル大聖堂のシャルトル・ブルーを模したもの。
床は内陣に向かって緩やかに下がっている。光の壁面と壁から独立した円柱の連続が、空間を実際よりも広く感じさせる。
南面(左側)。 |
ゴシック教会の束柱のような円柱は、高さ11メートル、直径43センチ。細い! 地震が無いからです。アーチ型のステンドグラスそれぞれの中央を飾る具象的な絵柄は、ナビ派のリーダー、モーリス・ドニの作で、第一次大戦のマルヌの戦いをテーマにしたもの。
内陣への階段。手すりがデコっぽい。 |
でも、ドニの絵柄より、微妙に変化する色彩のトーンと、正方形の枠にはめられた抽象的な図柄がだんぜんいい。制作したのは、女性のステンドグラス作家マルグリット・ユレです。
東面正面扉の脇はほのかな緑色。 |
蠟燭も控えめになってる。 |
微妙な色と形の調和がすごい。 |
このペレ+ユレ・コンビは、第2次大戦後にペレが手がけたル・アーヴルのサン・ジョセフ教会などでも組んでいる。
ペレの建物はどちらかというと地味で、ときにはやや暗い印象のものが多いけれど、この “コンクリートのサント・シャペル”といわれるル・ランシーの教会はほんとにきれいで、まさに珠玉の建築です。(宏)
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