2010年11月2日火曜日

パリの本3冊。

◉FIgaro japon/2009年11月掲載記事の再録。
パリの文化は異邦人(エトランジェ)の存在抜きには語れない。他所者(エトランジェ)としてパリに生きた人々を通して、パリを読み、そして自らを考える……。
 
ねむれ巴里 金子光晴 中公文庫
光晴の自伝三部作のうち、妻・森三千代との2年間を描いたまさに壮絶な巴里滞在記である。労働許可証を持たず金になることなら何でもやる光晴の、底辺に生きる人々への共感から生まれた文明批評は悲しく鋭い。
「タクシーはおろか、メトロにも乗らず、パリのすみずみまで、二本の足で放つき歩くことは、しんどいことではあるが、たのしいことでもある。」という光晴のパリは、今もあまり変わっていないのかもしれない。夫妻が暮らしたダゲール街22番地の安ホテルも現存している。

〈パリ写真〉の世紀 今橋映子 白水社 
アジェ、ドアノー、カルティエ=ブレッソン。パリほど多くの写真家に撮られた都市はない。「写真と文学」を中心テーマに、20世紀パリのイパリ・イメージの形成に重要な役割を持つという指摘はとりわけ興味深い。論理展開の強引さと、ウイリー・ロニスをロニと表記するなど、気になる点も散見するが、膨大な資料を駆使して語る著者の情熱とエネルギーに脱帽する。

パリからの手紙 堀内誠一 日本エディタースクール出版部
絵本作家・堀内誠一は雑誌のアート・ディレクターとして、また家族ぐるみパリ郊外に住んだ先輩として、わが生き方の手本とも言える人。彼は文でも絵でも、見たこと考えたこと感動したことを他人に伝えることの天才だった。その堀内さんがパリ滞在中の70年代に、岸田衿子、澁澤龍彦、谷川俊太郎、出口裕弘ら友人たちに宛てた絵入りの手紙集。パリから送られたアエログラムという薄くて青い航空便は、受け取った誰もが大切に保存する宝モノとなった。(宏)

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